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2024年05月28日

カレー沢薫の「バイト丸わかり図鑑」ファミレスホールスタッフバイト編

カレー沢 コラム タウンワークマガジン townwork

先日香典返しにバームクーヘンと某ヌターバックスのカードをもらった。

知らない内に香典返しもずいぶん洒落てきている、もはや故人の数だけタオルを積み重ねていく時代ではないのだ。
ちなみに香典返しは夫がもらったものだ、私はそもそも知り合いの母数が少なすぎるため、減少の機会すらあまりないのである。
よって私が永遠の命を手に入れたとしても、不老不死の人間にありがちな「私を残してみんないなくなってしまった」という悩みは「元々そんなにいなかった」という理由で発生しづらいということだ。

つまりバームもカードも夫のものだが、私は昴の次は俺かと目しているぐらいのヅァイアニズム後継者なので、当然夫のものは俺のもので、相伴にあずかる気しかない。

しかし、我が村のヌタバ数は私の知り合いより少ない、という問題がある。
店舗数で言えば「精米所カード」の方がまだ汎用性があるだろう。

このように、お礼やお返しの品というのは、あげても内容に文句を言われ、あげなくても言われるという人の心を荒ませるだけの文化なので一刻も早く滅んだ方が良い。

しかし、奇跡的にヌタバに行く機会があったので早速カードを使おうとしたのだが、そのカードに入っていたのは「1000円」であった。
ヌタバはチェーンカフェの中では高級な方であり、2人で1000円では足が出るだろうし、軽食も一緒に頼んだらもっとかかるだろう。
熟考の結果、私は「2000円」を自分で追加チャージしてからヌタバに挑み、会計は2000円強、1000円弱が余り実質「2000円自腹を切っただけ」になった。

そんなことをせずとも店員に1000円分だけカードで払い、残り現金でいいかなど尋ねれば良かったのではないか、と思うかもしれないが、私は店員との会話ターン数をいかに削るかに命をかけており、レジ前でモタついた時間だけ残基が減るシステムなのだ。
もちろん「できません」と言われた時点で即ゲームオーバーになる。

むしろ無言でスマホ画面を差し出すだけで会計が終了するのであれば2000円は安いとさえ言える。

人知れずこんな戦いをしている者の存在はあまり知られていないが、正直世の飲食店は私のようなコミュニケーション回避戦士に優しい仕様になりつつある。

ファミレスなどその際たるものであり、注文がタッチパネルなのはもちろん、席に料理を運んでくるのはロボ、会計すらセルフレジを導入しているところもあり、もはや一度も声を発することなく退店する「ノーミスクリア」さえ夢でなくなりつつある。

ここ数年でファミレスのシステムは大きく様変わりした、同時にそこで働く人の働き方も変化したのかもしれない。

そんなわけで今回はファミリーレストランの「ホールスタッフバイト」である。

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ファミレスのホールスタッフの仕事内容は、席案内、注文を受ける、料理を運ぶ、テーブルの後片付け、レジ、清掃と、他の飲食店と大差はない

だが、前述通り、注文や配膳をタッチパネルやロボに任せる店舗が増え効率化したため、より未経験者が働きやすい環境になったという。

確かにメニューを覚えたり、喧騒の中私のように声が異様に小さい客の注文を、聞き返し3回以内で正確に受けなければいけない、という業務が以前より減った時点でかなり楽であり、接客業としての敷居はかなり低くなったのではないかと思われる。

しかし、機械化したことにより、ファミレスホールスタッフの仕事が「棒立ち」のみになったというわけではない。

元々ファミレスは昼や夕方など飯時の客入りが多く、機械化した分ホールの人員を減らしていると思うので、繁忙時の忙しさは今も変わりがないようだ。

また不手際があった際、注文を受けたタッチパネルや料理を運んで来たロボにガチギレするお客は稀であり、やはりクレームは人間が受けることになる。

またタッチパネルの操作が分からない客への説明や、段差で動けなくなっていたり、壁に謎の体当たりをし続けているロボがいないか目を配るなど、機械化したがゆえに増えた仕事もあるだろう。

だが幅広い層のお客と接し、多様なクレームにも対応することから「いい社会経験になった」という感想も多いようだ。

また営業時間が長い店舗も多いことから、シフトの選択肢が広い、という利点もある。
深夜帯であれば、酔客や、ソファで完全に「寝」の体制を取ろうとする客の対応はあるかもしれないが、忙しいということはないだろうし、時給は割増となる。

個人的には、某ファミレスであれば、おキャット様を模した配膳ロボと一緒に働けるという大きな利点だと思っている。
配膳ミスに対するクレームも、おキャット様の代わりに怒られていると思えば苦ではない。

むしろ、万が一おキャット様にガチギレている客が現れたとしても「怒るなら俺に怒ってくれ」と両手を広げてまろび出るなど仕事に対して積極性が持てるはずである。

それ以前に、ホールにロボが登場して以来、クレーム件数自体が減っているという調査結果が出ている企業もあるらしい。

これはロボに怒っても仕方ないためもあるだろうが、ロボの方が優秀で人間よりミスが少ないせいもあるのかもしれない。

このまま行けばファミレスホールスタッフの仕事は全てロボに奪われる日が来るかもしれない。
そういう意味では今の内にやっておいた方が良いバイトと言える。


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カレー沢薫
1982年生まれ。漫画家・コラムニスト。2009年に『クレムリン』(講談社)で漫画家デビュー。SNSでは“自虐の神”と崇められる人気作家。
X(旧Twitter): @rosia29

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