【街で見かけた「働く人」劇場】挨拶がカッコよすぎるお酒宅配会社の店員さんの話
自宅の部屋――そこは、完全なるプライベート空間。
友人や恋人を招き入れる場合を除き、部屋の主(ぬし)は、部屋にいる限り「自由」で「楽」になれるのです。
理由は簡単。「社会に適合できるかどうか」や「世間からどう見られるのか」や「コミュニケーション能力の有無はどうか」などの、ストレスの元凶(なんだけれど、働いて賃金をもらうのであれば、ごく当たり前に感じるストレス)を遮断できるから。
ということで、筆者は自分の部屋で一日中すごす日は「私の時間を邪魔するな」的な感じで他人と直にコミュニケーションをとることを避けています。
しかし、ストレス発散には、お酒が必要不可欠。
お酒を購入するには、人と会わなければならない。でも、他人と会いたくない。必要最低限の他人と接し、お酒を購入する術は? ――そう、家までお酒を届けてくださる「お酒宅配業者」の利用です。
以前も書きましたけれど、筆者はよく「お酒宅配業者」にお世話になっております。
宅配をメインとしてらっしゃるので、宅配してくださる店員さんは、いつも同じ人というわけではありません。「その時間にたまたま空いていた店員さん」です。
その「たまたま空いていた店員さん」に一人、すごい店員さんがいました。
つい先日、いつものようにお酒の宅配を頼んだところ現れたのは、そこら辺にいる普通の男性っぽいけどよく見れば細身のイケメン。
「こんにちは。〇〇(宅配業者)です」と名乗る彼に、「初めて見た店員さんだなぁイケメンだけど特に魅力はないなぁ」と内心で失礼なことを思いつつ、お酒の受け取りから会計まで済ませた筆者。
すべてが終わり、彼は帰り際に挨拶をしてくれたのですが――
店員さん「ありがとうございました(阿部寛さんバリのセクシーボイス)」
筆者「!?!?!?!?!?!?」
颯爽と去っていく店員さん。事態が飲みこめない筆者。「えっ……特に印象に残らない『普通の声』だったのに、なんで『ありがとうございました』だけセクシーボイスにしたの??」
意味が分からなすぎたので、部屋でひとり悶々としながら考えた結果、ひとつの答えに辿りつきました。
あれはワザとだ。狙ってやっている。
店員さんがお客さんを「魅了させる」ことを考え実行するのは、接客業の要(かなめ)です。
彼は、意識していなかった他人の「意外な一面」を垣間見たとき、「あれ? 何いまの? なんかドキドキする……。この人のこと、もっと知りたい!」みたいな、恋愛感情にも似た好奇心のようなものを湧かせることを、接客業に取り入れたのです。
そう来たか! 一本取られたぜ……!スゴイ! としか言いようがありません。
接客業は、お客さんに気分よく買い物をしてもらうのが最優先です。しかし、今回の店員さんのように「意外な一面」を見せるなどして、お客さんに自分を印象付ける方法を考えて実行してみるのもおもしろいかもしれませんね。
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ちなみに、「部屋にひとりでいるときは誰とも会いたくない」と冒頭で力説した筆者ですが、今では「今回もあの店員さんが来てくれるのか」という淡い期待とともに、お酒の宅配をお願いしてはドキドキしています。しかし彼は、きっと人気があるのでしょう。私のところには来てくれません。

1988年生まれ。フリーライター。武蔵野美術大学造形学部芸術文化学科を卒業後、2年ほど美術業界を転々としていたが現在は主にWEB上で文章を書き生計を立てている。女性向けコラム、インタビュー記事、グルメレポート、体験記事など、幅広い分野で執筆活動を行う。